別邸 仙寿庵

群馬県・谷川温泉にある「別邸 仙寿庵」では、3つの自家源泉を混合して使用している。
3つの源泉名は「鞍置（くらおき）の湯」「河鹿の湯」「仙寿の湯」といい、混合割合は5 : 8 : 12である。
それぞれの源泉の湧出量と泉温は、下記の通り。
鞍置の湯・・・180ℓ／分　35℃　
河鹿の湯・・・60ℓ／分　50℃
仙寿の湯・・・120ℓ／分　43℃
各浴槽の泉温は41.4℃を基本設定しているが、これも外気温に合わせ、上記の源泉のブレンド比率を調整して、加水をせず適温にしている。ただし、冬季のみ、入浴に適した温度に保つため加温する事があるらしいが、加温は、加水と比べると泉質のコンディションをほとんど損ねない。
どの源泉も動力揚湯。つまり、ボーリング（地中に深い細い穴を掘る）を行い、掘削することで得られた温泉のこと。それぞれの源泉の泉温はまちまちだが、それらを混合することにより、施設内の浴槽に適温にて、すべて源泉100％かけ流しで配湯している。

源泉かけ流しとは、分かりやすく言えば、源泉が浴槽に注がれたあと、溢れた分はそのまま排水溝へ流して捨ててしまう方法のこと。
贅沢な湯使いと言えるが、この方法が最も温泉が本来持っているパワーを発揮できるシステムとも言える。
3つの源泉の合計の湧出量は約360リットル／分。「別邸 仙寿庵」での最大収容人数は50人なので、単純計算で1人あたり7.2リットル／分ほどの源泉を使用できるということ。
諸説あるが、源泉かけ流しで、清潔な状態で湯浴みを楽しむためには1人あたり約1リットル／分程度の源泉量が必要と言われている。源泉量がこれに満たない場合、温泉をリサイクルする、塩素消毒を伴う循環ろ過機などの設備が必要になる。この宿では、数字上でも充分過ぎるほどの源泉量があるとわかるだろう。

泉質名は、「カルシウム・ナトリウム－硫酸塩・塩化物泉」 （低張性 弱アルカリ性 温泉）。 旧泉質名でいうと「含食塩－石膏泉」。ガス性のものをのぞく溶存物質総量は1,293 mg/kg。
谷川温泉周辺の温泉宿では、1,000 mg/kgに満たない、いわゆる単純温泉が多い。それらと比較すると、この宿の源泉はクセのない無色澄明なお湯だが、中身は“濃い”温泉であることが分かる。
この宿は全18室で、全ての客室に四季の景色を愉しめる露天風呂が備わる。
客室露天風呂の他には、男女別大浴場「一の蔵」と「仙の蔵」には、内風呂のほかに、それぞれ露天風呂「すずむしの湯」と「ほたるの湯」が設けられている。
もちろん大小はあるが、合計で22もの浴槽にすべて源泉かけ流しをしているのだから、温泉の量で悩む他の温泉旅館からすれば、羨ましい限りだろう。

温泉の特長を解説すると、陽イオンのカルシウムイオンと、陰イオンの硫酸イオンの組み合わせである「カルシウム－硫酸塩泉」 がこの泉質の主役となる。
カルシウムイオンは、血管の収縮と拡張を調整する作用があり、神経の鎮静効果や、痛みや炎症を和らげる効果がある。さらに、皮膚の再生促進にも貢献する。
硫酸イオンは、殺菌効果があるので、きりきずに有効で、硫酸塩泉は「傷の湯」とも呼ばれる。さらに、血管を拡張させ、血液に多くの酸素を送り込む作用があるので「脳卒中の湯」とも称される。血行が促進される事で、冷え性や末梢循環障害にも有効。このような温熱効果などの影響で自律神経の調整も行われ、うつ状態の改善も図れる。そして、乾燥した皮膚に水分を補給する働きもあり、皮膚乾燥症にもいいとされる。
陽イオンのカルシウムイオンと結びつく「カルシウム硫酸塩泉」は、旧泉質名で「石膏泉」と呼ばれる。カルシウムイオンは角質層の形成・再生を促す働きがあり、硫酸イオンは肌の弾力機能を高めて、シワができるのを防ぐ働きがある。よって「カルシウム硫酸塩泉」はアンチ・エイジング作用がある「美肌の湯」のひとつに数えられるのだ。

次に、もうひとつの主役は、陽イオンのナトリウムイオンと、陰イオンの塩化物イオンの組み合わせである「ナトリウム－塩化物泉」。
ナトリウムイオンは、皮膚の角質層に働きかけ、保湿効果をもたらす。肌の水分を保持しやすくするため、乾燥肌の改善に役立つ。また、筋肉の緊張をほぐし、関節痛や筋肉痛を和らげる効果がある。そのため、疲労回復やリウマチなどの緩和に適している。さらに、浸透圧の影響で血流を促進し、新陳代謝を高める働きがある。これにより、冷え性の改善やデトックス効果も期待できる。また、入浴によるリラックス効果が増し、疲労回復に効果的。加えて、皮膚の汚れや老廃物を取り除く効果があり、肌を清潔に保つのに役立つ。
塩化物イオンは、ナトリウムイオンと結びつくと「ナトリウム－塩化物泉」となり、肌の表面に塩の膜を作る事での保湿効果は皮膚乾燥症予防に貢献し、その塩分パックは汗腺を塞ぐ事で保温効果を高めるため湯冷めしにくくなり「熱の湯」とも呼ばれる。
その持続的な保温効果は、末梢循環障害や冷え性に有効で、自律神経のバランスが整いやすく、精神的な安定感をもたらす。さらに体温上昇によりストレスホルモンの分泌が抑えられ、気分の改善に寄与する可能性があり、うつ状態に効果を発揮する。さらに殺菌作用があるので、皮膚の炎症やきりきずの治癒を助け「傷の湯」と称される。
また、「塩化物泉」は、「仕上げの湯」とも称される。その理由は、皮膚の古い角質を取る「（弱）アルカリ性単純温泉」や「炭酸水素塩泉」「硫酸塩泉」「硫黄泉」などの、いわゆる「美肌の湯」の温泉に入った後に、「塩化物泉」に入ると、塩分コーティング＆保湿作用で、肌から温泉成分を逃がさず、潤いを持続させることができるから。

pH 8.4の弱アルカリ性の温泉であることも見逃せない。
一般的に人間の肌は弱酸性であるので、この温泉に浸かると肌表面が反応しツルツルした肌触りとなる。
この肌触りは皮膚表面の古い角質が溶けているから発生する。湯上がりには、スベスベした肌に仕上がっているだろう。
シワ防止・肌の蘇生が期待できるアンチ・エイジング作用の「硫酸塩泉」。
古い角質を除去してツルツルすべすべにしてくれる「弱アルカリ性」の温泉。
そして塩分コーティング＆保湿作用の「塩化物泉」という組み合わせは、「別邸 仙寿庵」の温泉は「美肌の湯」だと断言できる。

さらに、上記の陽イオン、陰イオン以外の非解離成分にも注目したい。
メタけい酸は天然の保湿成分と呼ばれるが、含有量は43.6 mg/kgで、温泉の資格を得られる基準値（50 mg/kg以上）に惜しくも届かなかったが、充分にその効果は発揮している。含有量が100 mg/kg以上になると「美肌の湯」と言われる条件のひとつとされる。
メタほう酸は10.6 mg/kgも含有している。5 mg/kg以上含有すれば温泉の資格を有するが、ここでは２倍以上の数値となっている。洗浄効果を持つ成分で、ニキビ予防に効果的と言われている。10 mg/kg以上になるとサブ的な意味合いではあるが「美肌の湯」と言われる条件のひとつとされる。

以上のように、温泉の解説をさせていただいたが、それは主に化学的効果の視点からである。
しかし、温泉がヒトに与えてくれる効力はそれだけではない。
優れた泉質の露天風呂に浸かりながら、周りを見渡せば、そこは季節ごとに変わっていく自然の造形美を眺めることができる。
日本百名山に数えられる谷川岳のふもとにある山あいのこの土地の澄んだ空気に包まれながらの湯あみは、カラダだけでなく、メンタル面での癒しに大いに貢献するはずだ。
温泉はクスリではないが、別なアプローチで、心身の不調を正してくれるのは間違いないだろう。

名峰・谷川岳（標高1977ｍ）の眺望をいただき、マイナスイオンたっぷりの渓流と森の中、群馬県と新潟県の県境に、水上温泉郷のひとつと数えられている「谷川温泉」がある。比較的小さな温泉地だが、水上温泉郷の中でも、どこかワンクラス上の雰囲気と自然たっぷりの環境が、多くの旅行客を誘っているようだ。
谷川温泉の開湯は1400年頃といわれる。大正時代から昭和初期の頃には、太宰治、若山牧水、川端康成など文人墨客が訪れている記録もあるそうだ。
別邸 仙寿庵のオープンは平成9年。8,000坪(現在は土地を買い増しして2万坪となった)という広大な敷地に「旅館たにがわ」の別館としてオープンした。当時、露天風呂付き客室という宿は全国にいくつか存在したが、全室に露天風呂を備えるというところは、もしかしたらこの「別邸 仙寿庵」が最初かもしれない。
平成24年には、フランスに本拠を置く一流ホテル・レストラングループ「ルレ・エ・シャトー」への加盟が認められた。加盟のためには「5C」が厳格に審査される。Courtesy(心のこもったおもてなし)、Charm(洗練された魅力あるスペース)、Character(特色や個性あるスタイル)、Calm(落ち着きやリラックスできる場所)、Cuisine(質の高い料理)の5つだ。ルレ・エ・シャトーは日本のホテル・宿泊施設で加盟を許された施設は数軒しかなく、その1つが「別邸 仙寿庵」なのである。
別邸 仙寿庵はオープン当時から繁盛し続けている。これはきっと、設備をどんどん進化させ続けることで、リピーターが後を絶たないからだろう。平成10年に読書室を建設、平成12年・18年・20年と食事処を増設。平成16年にはエステティックサロンと足湯をオープン。平成30年には手湯付きのガーデンテラスをオープン。今後はこのガーデンテラスと広々とした中庭を利用した、自然と一体化したようなイベントも計画中ということで、ますますの進化が楽しみである。
ハード面だけでなく「おもてなしの心」というソフト面のレベルの高さも、多くのスタッフから感じられる。社長・久保英弘氏の陣頭指揮のもと、良い施設を作り上げようという気概が伝わってくるようだ。ハード面の充実と平行して、ソフト面も向上しているような宿は、やはり顧客満足度は高い。この施設に通うお客様は、リピーターというよりもサポーターという表現が正しいかもしれない。
静かな山の中で贅沢な空間で時を過ごすことは、人間にとってこの上ない幸せ。至福の時を過ごそうとして、別邸 仙寿庵を選択することは賢明と言うほかないだろう。
宿泊レポートはコチラ