箱根 花紋

「箱根 花紋」の名は、かの豊臣秀吉が、戦国時代の終わりを告げる小田原征伐（1590年）の際に詠んだ句に因んでつけられた。男女別大浴場・露天風呂は、その時の一夜城をイメージして造られたとの事。太閤気分を味わえると言っても過言ではない。 この宿の温泉は敷地内で湧出している自家源泉。 メリットは湧出地から浴槽までの距離が近いこと。温泉に不純物が混じることや、空気と触れることによる泉質の劣化が最小限に抑えられるからだ。 泉質は「ナトリウム・カルシウム－塩化物・硫酸塩泉」。旧泉質名でいうと含石膏－弱食塩泉。 この泉質ならではの適応症は、きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症。 温泉の溶存物質も2,450mg/kgと、単純温泉の上限値（1,000mg/kg）の約2.5倍と濃厚な温泉であることが分かる。さらに言えば、一般的な市販されている入浴剤と比較すれば16～24倍の有効成分が含有されているのだ。 湯の色は無色澄明だが、その中身は想像以上の療養泉と言えるのである。

まずは弱アルカリ性であることに注目したい。 人間の肌は一般的に弱酸性であるため、弱アルカリ性の温泉に浸かると皮膚表面の古くなった角質が反応して溶ける。そのため肌触りがツルツルし、湯上がり後には肌がスベスベになっていることだろう。(弱)アルカリ性の温泉は、「美肌の湯」の代表格と言われる泉質である。 とはいえ、美肌の湯にも落とし穴があるので注意しなければならない。古い角質が溶けるということは、言い換えると湯上がり後は肌が乾燥しやすい状態になっていることを意味する。 しかし、この温泉の場合は心配御無用。弱アルカリ性であると同時に塩化物泉でもあるからだ。塩化物泉に含まれる塩分は、入浴するとまるでパックのように身体を覆ってくれる。これが湯上がり後の肌乾燥を防いでくれるのだ。 なお、この塩分パックは入浴後の発汗を抑えて体温低下を緩やかにする。そのため冷え性の方に特に効果的で、そのため塩化物泉は「熱の湯」とも呼ばれる。 また、塩分には殺菌作用があるため、入浴することで肌表面のトラブルを広く抑えてくれる効果が期待できる。きりきずや火傷に効果を発揮するので塩化物泉は「傷の湯」と呼ばれることもある。

同時に硫酸塩泉であることも見逃せないポイントだ。 この泉質は、肌の蘇生を促す(新陳代謝を活性化する)。そのため、塩化物泉と同様、肌表面のトラブルを広く抑える作用が期待できる。 具体的にはきりきず、火傷、ニキビ、乾癬(かんせん)、かゆみ、慢性湿疹などだ。よって、硫酸塩泉も塩化物泉と同様「傷の湯」と呼ばれる。 また、硫酸塩泉は皮膚の余分な脂分を洗い流す力があるため、オイリースキンの方にも効果が高い。 さらに硫酸塩泉には、血液に多くの酸素を送り込み、肌に水分を補給させ、肌にハリと潤いを与えるアンチ・エイジング作用がある。よって「若返りの湯」と言われることもある。 したがって、硫酸塩泉であることも「美肌の湯」と言われる条件のひとつとなっている。 また、カルシウムイオンは鎮静作用があるため、高血圧症や動脈硬化症など、血管系の症状に効果があると言われる。血管のトラブルを防ぐ効果があるので、「脳卒中の湯」とも呼ばれることがある。

泉質名に現れていない成分にも注目だ。メタケイ酸が源泉1kgあたり62.6mgで、温泉の規定値(50mg／kg)以上も含まれている。メタケイ酸は天然の保湿成分と言われ、一部の化粧水などの原料の一部として使われることがある。保湿成分のおかげで湯上がりには肌がしっとりとしているだろう。メタケイ酸を豊富に含むことも「美肌の湯」と言われる条件と呼ばれる事もある。 さらに、メタホウ酸も見逃せない。46.6㎎／1kgも含み、温泉の規定値(5mg／kg)の9倍以上の量もある。これは驚くべき数値！メタホウ酸が多く含む温泉は、制菌作用、あるいは洗浄作用があると言われている。ニキビの予防にもいいとされる。

この宿は、大浴場の一部の露天風呂や、貸切露天風呂、最上階の客室付き露天風呂は源泉かけ流しだが、その他の湯船は、新鮮な源泉に地下水を加水しつつ循環ろ過している。源泉かけ流しとは温泉を湯船に注ぎ、溢れた分はそのまま捨ててしまう方式のこと。常に新鮮な温泉に触れられることがメリットだ。贅沢だが、温泉成分をできるだけ享受したいという人にはぴったりである。 しかし、不特定多数が入浴する男女別大浴場で源泉かけ流しにするのは衛生面で不安が残る。入浴前に充分にカラダを洗うなどのマナーを守らない人がいるかもしれないからだ。 そもそも、源泉かけ流しは、衛生面で考えると1時間以内でその浴槽の温泉が入れ替わるぐらいの湯量が必要とされている（残念ながらそれほどの湯量を持っている宿は、国内で1割にも満たない）。そのため男女別大浴場・露天風呂では、（一部を除いて）源泉かけ流し・循環ろ過併用型の温泉利用とし、塩素消毒を行い、清潔な状態をキープしているのだ。なお、塩化物泉や硫酸塩泉などの塩類泉は、温泉成分が比較的劣化しにくい泉質という事も付け加えておく。 とはいえ、この宿は全18室（うち温泉風呂付き客室は14室）にも関わらず、男女別大浴場・露天風呂には様々な浴槽が10種類ほど用意されている。満室の場合でも、混雑することもない。 ゆったりと温泉浴が楽しめるのがこの宿の自慢だ。

箱根湯本駅の南にある県道732号線は、旧東海道と言われ、1601年（慶長6年）に徳川家康が制定した五街道の1つにあたる。この街道沿いにある早雲寺・惣門の真向かい、白山神社の隣りに建つ宿が、「箱根 花紋」だ。
屋号は、前述の豊臣秀吉の小田原攻めに由来する。合戦の前夜、ひと時の茶会を楽しんでいた秀吉の湯のみに、ひとひらの花びらが舞い落ちる。その風情を「風の舞 我が懐に 花の紋」と詠った秀吉は、風も花さえも自分の味方になってくれているという確信を強く持ったのだ。
その時代を偲ぶように、宿の外観も城郭風になっている。館内は全館畳敷きで、高級感溢れる純和風旅館だ。
温泉とともに、「花紋」の評判を上げたのは料理だろう。近海の海の幸、箱根の山の幸をふんだんに取り入れた懐石にファンが多い。その日に水揚げされた新鮮な魚をアレンジする海鮮グリルは絶品だった。また、美しい盛り付けで、バリエーション豊富なデザートも、女性に好評を博している。2012年には『日本一の朝ごはん』を決定する「朝ごはんフェスティバル」にて、全国約1000施設の中から、優勝を勝ち取っている。(2017年には第3位に選ばれている。)
宿泊プランにはマタニティプランや長寿を祝うプランなどが用意されている。アレルギーやカフェインなど、健康に気を使いつつも栄養があるメニューを用意してくれる。もちろん落ち着いた雰囲気を漂わせる和室は、大事なパートナーとの記念日にもいいし、普段着での気軽な旅にもいい。
オーナーの「人を驚かせたい、喜んで欲しい」というサービス精神の強さが感じられる。
箱根は首都圏から近いことから、日本一立地がいい温泉地と言われている。だが、立地の良さに甘えることなく、サービスの隅々からオーナーのやる気が見える宿である。近隣の箱根湯本の宿経営者には、戦々恐々の心境かもしれない。それほど、魅力溢れる宿なのだ。あとは、この宿を利用するゲストそれぞれが、自分だけのかけがえのない思い出やストーリーを作るだけだ。
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