旅館たにがわ

泉質名はpH8.3の「弱アルカリ性単純温泉 」。典型的な「美肌の湯 」と言われている。古い角質を除去してくれることで、湯上がりの肌触りがスベスベになるからだ。
単純温泉は、温泉の種類の中で溶存物質が少ないタイプということで、その分刺激が少ないため、よほどの長湯をしなければ湯あたりする心配も無い。小さなお子様から、年配の方、肌の弱い方などにも優しい泉質なので「家族の湯」とも称される。また、その泉質から病後、外科手術後などの回復期のリハビリにも適しており、さらに「神経痛の湯」「脳卒中（中風）の湯」とも呼ばれている。ただ、溶存物質が比較的少ないといっても、この温泉は市販されている温泉に見立てた入浴剤と比較すると、約４～6倍の有効成分があることも付け加えておく。さらに温泉分析書をよく見てみると、精神安定に役立つと言われているカルシウムイオンが目についた。また、ナトリウムイオン、塩化物イオンも豊富で、これはよく温まる泉質である事が分かる。

一般的に温泉には、適応症と呼ばれる入浴した際の効果が期待できる。
筋肉もしくは関節の慢性的な痛みまたはこわばり(関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期)、運動麻痺における筋肉のこわばり、冷え症、末梢循環障害、胃腸機能の低下(胃がもたれる、腸にガスがたまるなど)、軽傷高血圧、耐糖能異常(糖尿病)、軽い高コレステロール血症、軽い喘息または肺気腫、痔の痛み、自律神経不安定症、ストレスによる諸症状(睡眠障害、うつ状態など)、病後回復期、疲労回復、健康増進･･･というのが一般的適応症。
それに加えて、温泉の種類によってさらに効果が期待できるものとして泉質別適応症というのがある。
単純温泉の泉質別適応症は、自律神経不安定症、不眠症、うつ状態･･･となる。
つまりこれは、いわゆるメンタルに効くという温泉なのである。自律神経のバランスが崩れると、人によっては、倦怠感、頭痛、吐き気、多汗、動悸、不整脈、不眠、めまい、肩こり、手足のしびれなど、様々な不調のサインが出てくる。単純温泉に入浴すると、肌に優しい泉質のため刺激が少なく、リラックス感も高まり、ストレス解消にも役立つという事なのだろう。ちなみに日本では現在10種類に分類されている泉質だが、泉質別適応症に「不眠症」があるのは、単純温泉だけである。

「旅館たにがわ」は自家源泉3本、共同源泉1本の合計4本の源泉を持つ。
温度差（58～44℃）のあるその4本の源泉を混合させ適温にし、浴槽に配湯している。
その豊富な源泉を利用して、男女別大浴場・露天風呂、客室露天風呂を源泉100％かけ流しにしているので、常に浴槽に新しい温泉が注がれ（108リットル／分）、湯舟から温泉があふれ出している。
なお、２つある貸切露天風呂は、常に新しい温泉を湯舟に注いでいるが、循環ろ過装置を使って塩素＆オゾン消毒を施し温泉をリサイクルしている。湯温の調節が難しい面もあるのだろう。

日常生活から離れ、名峰・谷川岳のふもとにあるマイナスイオン豊富なこの山間の地で、新鮮な温泉を体感できることは、療養的にも正しい選択だし、健康な方でも心身ともにリフレッシュできる。つまり、五感に刺激を与えることは、内分泌系器官のひとつである脳から出るホルモンによる代謝、免疫、生殖といった機能や、血圧や呼吸などを司る自律神経を、正常な状態にする効果が認められている。これを温泉の物理効果のひとつ「転地効果」と言われており、いわゆる心理効果も期待できるのである。

谷川温泉は、群馬県北西部、新潟の県境に「日本百名山」の一つにも数えられている谷川岳（標高1,977m ）の南側真下にある。自然豊かな森の中にあり、谷川の清流に沿って宿が並ぶ。
川辺には露天風呂、渓流のせせらぎ、時には河鹿（カジカガエル）の鳴き声も聞こえる自然と一体化したこの温泉地は、太宰治の石碑や若山牧水の歌碑があることからも分かるように、多くの文人墨客から愛されてきた。
谷川温泉は、いわゆる水上温泉郷のひとつであるが、大型温泉旅館ホテルが乱立する水上温泉の中心部とは別のベクトルで、多くの客人たちをもてなしてきた。現在、旅館としてはたった4軒、ペンション・民宿合わせも数軒営業するのみの小さな温泉地ではあるが、現在、水上温泉郷の中では最も人気のあるエリアと言えるだろう。

「旅館たにがわ」は、客室数28の温泉宿。ロビーには、谷川岳のフォトギャラリーが常設され、さらにシーズンごとに展示イベントを行っている。男女別大浴場には露天風呂も備わり、さらに２つの貸切露天風呂も用意されている。
「旅館たにがわ」の客室は、スタンダードな和室のほかに、源泉かけ流しの露天風呂付きもあれば、畳敷きの和室にベッドを配置したものなど多彩で、最近では壁面にプロジェクター投影ができ映画鑑賞なども楽しめるキングサイズのベッドの客室や、自前のスキー・スノーボード、マウンテンバイクなどを客室に保管できるアクティブタイプと呼ばれる客室もある。
この人気の秘密は、それはやはりキメの細かいサービスとアイディアだろう。
例えば、露天風呂で、特製のひのきの升に入った地酒やアイスクリームをお風呂まで届けてくれたり、靴下の洗濯サービスがあったり、さらに朝食前にロビーで舞茸のみそ汁をいただいたり・・・と数々のサービスを提供してきた。地元の食材を活かした料理も評判で、リピーターも多い温泉宿と言えるだろう。
また「走れメロス」「斜陽」「人間失格」などを執筆した小説家・太宰治（1909～1948年）ゆかりの宿としても知られている。1936年に文豪・川端康成（1899～1972年）の勧めで病気療養（いわゆる転地療法）のため、この宿（当時の名称は川久保屋）に約1ヶ月滞在した。館内に設けられた「太宰治ミニギャラリー」には、貴重な遺品や書籍が展示されている。
宿周辺のアクティビティも人気だ。春～秋は水量豊富な利根川でのラフティングやキャニオニングが盛ん。
冬は、スキー・スノーボードはもちろん、スノーシューを使って雪景色の中を散歩するなど、様々な選択肢があるようだ。
源泉かけ流しの「美肌の湯」の温泉に心ゆくまでつかり、おいしい山の空気と絶景も愉しんでいいただきたい。
ちなみに、この温泉地には「別邸 仙寿庵」という高級旅館がある。全室露天風呂付きの憧れの宿として、今では海外の方も含め、多くの方々に認知されているが、その宿も「旅館たにがわ」が運営しているのである。
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