石川県／山中温泉『お花見久兵衛』の温泉解説−本物の温泉を使った宿のみご紹介しています。−温泉検索どっとこむ

◆この湯に浸かった著名人

◆温泉レポート

石川県・山中温泉を、群馬県の草津温泉と兵庫の有馬温泉と並び「扶桑の三名湯」として数え、その効能を日本中に広めたのは、江戸時代の俳諧師・松尾芭蕉(1644〜94年)。 草津温泉は酸性の硫化水素臭の濁り湯。有馬温泉は濃厚な塩分と鉄分による茶褐色の湯。そのふたつの強烈な印象の温泉と比べて、山中温泉はほとんど無臭で無色澄明（透明）。そこで、芭蕉は「山中や菊は手折らぬ湯の匂ひ」という句を詠んだ。古代中国で、とある少年が菊の露を飲んで七百歳まで生きたという伝説があるのだが、そんな伝説に頼らなくても山中温泉の湯は匂いを嗅ぐだけで寿命が伸びるようだ、といった趣旨の句である。 現在の山中温泉は、加賀市が山中温泉財産区として集中管理しており、基本的には山中温泉の温泉旅館は同じ泉質となる。その中でも「お花見久兵衛」は、特に女性に人気の宿として評判だ。 泉質は「カルシウム・ナトリウム−硫酸塩温泉」。pH8.5のアルカリ性。 泉質別の適応症として、きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症が認められている。
まずはアルカリ性の泉質であることに注目したい。人間の肌は一般的に弱酸性であるため、アルカリ性の温泉に浸かると、皮膚表面と反応して、古い角質を取ってくれる。湯上がり後は肌がツルツルに感じるはずだ。アルカリ性であることは美肌の湯と呼ばれる条件のひとつである。 カルシウムイオンと硫酸イオンが主な成分の温泉（カルシウム−硫酸塩泉）は、旧泉質名でいうと「石膏泉」と言われる。石膏泉は肌の蘇生効果、すなわち新陳代謝を活性化する効果があり、きりきずや火傷、ニキビ、乾癬(かんせん)、かゆみ、慢性湿疹など、皮膚表面のトラブルに広く作用する。「アンチ・エイジングの湯」もしくは「若返りの湯」と呼ばれることがある。芭蕉はこの効果を見抜いて、句を詠んだのかもしれない。もちろん若返り効果だけでなく、肌表面の傷にも効果が期待できるので、「傷の湯」とも呼ばれる。石膏泉であることも美肌の湯と呼ばれる条件のひとつである。また、皮膚の余分な脂分を洗い流す力があるため、オイリースキンの方にも効果が高い。
カルシウムイオンには鎮静作用があるため、高血圧や動脈硬化などを予防し、血管に関する大病を防ぐ効果があると言われている。そのため、「脳卒中の湯」とも言われる。 山中温泉はナトリウムイオンも含み、硫酸イオンが主に結びつく温泉（ナトリウム−硫酸塩泉）となると、旧泉質名で「芒硝泉」と言われる。芒硝泉としても、高血圧症、動脈硬化、外傷に効果が高いと言われている。
微量ではあるが、塩分(塩化物イオン)も含まれていることも見逃せない。塩分には殺菌作用があり、浸かることできりきずや火傷など、広く肌のトラブルに効果がある。石膏泉と同様、「傷の湯」と呼ばれる。
さらに塩分を含む温泉は、入浴すると塩分が肌の成分と結びついて皮膜を形成する。この皮膜が湯上がり後もパックのように働いて汗腺を塞ぐので、湯上がり後の発汗による体温低下を防ぐのだ。保温効果がとても高く、冷え性は他の泉質にも適応症として認められるが、塩化物泉は特に冷え性に効果が高いと言えるだろう。そのため「熱の湯」と呼ばれる。
この塩分パックは肌の保湿効果も期待できる。ところで、溶存物質の割合にもよるが、アルカリ性の温泉の湯上りは古い角質をはがされた状態になり、ツルツルにはなるもののすぐに乾燥しがちになる。だがご安心を。この温泉の場合、この塩分のパックが保湿剤のような役割を果たしてくれるからだ。
なお、この宿では一部の客室露天風呂は源泉100％の温泉を体感できる。詳しく言えば「溜め湯」方式で、蛇口をひねれば温泉が出てくる仕組みだ。 それ以外の、男女別大浴場や露天風呂などの浴槽は、温泉を循環ろ過し、塩素消毒して使用している。その主な理由は、衛生面の問題である。
温泉は、源泉かけ流し（放流式）が一番と考えている温泉ファンは少なくないが、その源泉かけ流しの中身が問題なのである。その前提は、豊富な温泉が湯舟に注がれ続け、1時間あまりで浴槽の温泉が新しい温泉に入れ替わるのが理想とされるが、実際そのような源泉量を持つ宿は、おそらく多めに見ても全国で5％にも満たないだろう。
お風呂に入る人すべてが、石鹸でカラダの汚れを落として入浴するわけではない。たまにかけ湯もちょっとするだけで、湯舟に入るマナー違反の客もいる。
だからこその、循環ろ過方式の存在価値があるのだ。
山中温泉は、美肌の湯、アンチ・エイジングの湯として有名で、衛生面も安心。女性に人気の理由のひとつがそこにあるのは間違いないだろう。